お知らせ

地域とともに歩む中小企業として、関心はなくても関係がない企業は1社たりともない

宮川 絵理子

宮川バネ工業株式会社 専務取締役 (2019年時点)

宮川バネ工業株式会社は、東近江市にある精密バネ・薄板バネ等を製造する会社。社会的養護(*1)のもとで暮らしている子どもたちの自立の力を育む“ハローわくわく仕事体験(*2)”協力企業として就労体験を受け入れ、自立を応援しています。

ハローわくわく仕事体験に出会ったきっかけからお話ししますと、私が所属している滋賀県中小企業家同友会の会合に、縁センターから企業登録のお願いに来られました。恥ずかしながら初めて「社会的養護」という言葉を知り、そのとき職員さんがおっしゃった「子どもたちの応援団を増やしたい」という言葉がずっと焼き付いて、今もその言葉に引っ張られている感じです。社会的養護の子どもたちが社会に出るにあたってどんな困難を乗り越えているか、出てから実際にどんな困難に直面しているか、本当に衝撃を受けたことを覚えています。一企業として、大人として。

一番初めに仕事体験に来てくれたのは中学2年生の男の子でした。最後の日に駅まで送っていく道中に「もっと早く、ちゃんと1人で働けるようになりたいんです」と言って帰っていったんですね。中学2年生の子からこういう言葉が出てくるなんて、社会的養護の子どもたちが抱えさせられているものの大きさに胸が締め付けられました。この仕事体験は、子どもたちにとって興味本位とか義務とかいうものではなくて将来に直結しているということに気づかされました。どの子も自分の将来の自立というものを見つめて本当に一生懸命、一生懸命、仕事に取り組んでくれます。この事業を通して教えてもらった一番のことは、やっぱり子どもたちって本当に可能性のかたまりやなって。誰も知らないところに1人でやって来た朝の不安そうな顔が、帰る頃には早くも、ちょっと自信がある顔に。たった数日の体験で表情や言動が変わっていくんですよ。

登録している企業の数、関わる大人の数だけ、子どもの希望や安心につながっていると思いますが、やっぱり現実には「福祉」というと一般企業としては専門知識もないですし、「うちにはできることがない」って、ちょっと構えてしまいます。福祉的なアプローチからのつながり、これは絶対必要です。それがなければ私もこの事業のことを知らなかったので。でもそれに加えて、私たち企業や人同士の横のつながりのなかで、何となく「楽しそうなことやっているね」というような共感がひろがる、その「共感からのつながり」もすごく大事だと思っています。

この事業を通して私も従業員も社会の問題に関心が向くようになりましたし、会社が社会の問題に関心をもち、いろんな機関とつながっているということが従業員の安心にもつながります。そういったつながりこそが、最終的には誰もが安心して暮らせる地域に必要じゃないかと思っています。地域とともに歩む中小企業として、関心はなくても関係がない企業は1社たりともないと思っています。うちみたいなごくごく普通の田舎の企業でもできることがある、いろんなかたちの関わり方があるということを企業の立場から発信して、子どもたちの応援団を少しでも大きくしていきたいと思っています。今も、ネットワークを駆使して、子どもたちの希望している企業やお店を一生懸命探しています。

*1 社会的養護
一般的には耳慣れない言葉ですが、保護者がいない、または育てられない18歳未満の子どもを社会的に養育する仕組みです。子どもたちは、家庭に代わって施設や里親・ファミリーホームなどで育っていきます。現在、滋賀県における社会的養護の子どもたちは約350人。県内の施設に入所している子どもの約7割が親からの虐待を受けているという現状のなかで、こころとからだの課題を抱える子どもたちも多くいます。子どもたちはさまざまな夢を描き、原則18歳になると施設や里親のもとから巣立っていきます。
*2 ハローわくわく仕事体験
社会的養護を受けて施設入所中の中高生が長期休みを利用して自分の希望する仕事や会社を登録企業から選び、3~5日間の仕事体験をします。「ハローわくわく」は自立という人生の大きな分岐点に「不安」だけではなく少しでも「わくわく」という期待をもって飛び出していけるようにとの思いを込めた名称です。2017年、2018年と1名ずつ、この仕事体験で出会った企業に就職しました。
〈えにし図書館 関連刊行物〉

この記事はこちらの刊行物にも掲載されています。