お知らせ

ひたすらに誰かとつながりたくて少しずつ社会との縁を紡ぎ直す段階の人たちがいます

金子 秀明

社会福祉法人さわらび福祉会 常務理事 (2019年時点)

さわらび福祉会が主体となり、ひきこもりがちな人やその家族を支援する「甲賀・湖南ひきこもり支援『奏-かなで-』」で、専門職や地域住民と協力し、さまざまな生きづらさを抱えた方へ寄り添う支援を継続して行っています。

ひきこもりの方の支援をしていますが、継続して支援している32名のうち、障害や病気との診断をされていない方は半数以上の19名。「高校や大学を卒業(または中退)しました。働いた経験もあります」という方もいます。本人といまだ出会えない方、メモを置いたり、ドアの外から声をかけるだけの人もいます。

また、これまでの支援で、長期のひきこもり生活から、改めて社会とのつながりを模索し始めている方もいます。ある男性は通算で13年間くらい、ひきこもっていました。窓にはカーテンを掛け、カーテンだけではまだ不安なのか、毛布を掛けることもありました。真っ暗にしてまわりの声が入ってこないように、自分の部屋が見られないように、ひたすらに社会とのつながりを切り続けてきたわけなんです。家族とも顔を合わせなかったんですが、唯一夜中にコンビニへたばこを買いに行く。「俺、意地でもタスポをつくらなかったんですよ。コンビニに行って店員に言うのはタバコの番号だけ。俺、それだけですけど、社会との接点というか、小指だけぐらいかもしれないけど何かつながりがほしかったんですよね」と、その頃の話をしてくれました。一方で、支援者が来れば、「今度来たら殺してやる」とか、そういう言葉しか出なかった苦しい時間でした。

いろんなことがあって部屋から出始めた彼。週1日2時間のアルバイトを1年間続けることができました。少しだけ自信がついた彼は、「普通とか一般とか定義はよく分からないですけど、やっぱり憧れがあるんすわ。今は景気がいいから、俺みたいなやつでもひょっとしたら普通の中に紛れ込んでいけるかもしれない。やっぱ働いてみたいんですよ」。私が「働いているやんか。それで今は十分やん」と言ったら、「ちゃんと普通に働きたいんですよ」と。ところが、ハローワークに行くことになると、もう履歴書を書くだけでも不安がいっぱいで「13年間を何て書けばいいんだろう」とか、担当者に「最終の職歴は?」「離職票はありますか?」とか聞かれると、顔つきが変わってしまいました。それでも今、普通という壁にチャレンジして就職活動をしています。

ひきこもり状態で、家族も顔を見せてくれるだけでいい、そう願っていた毎日。まずは、顔を見せてくれてありがとう、と言われたり、自分がいても否定されない場所を見つけることが必要。でも、1歩外に足を踏み出した方のなかには、社会のなかでは障害者として生きていくか、普通にチャレンジしていくか、この2つしかないんだという思いをもっている方もいます。あるがままの君でいいやないかと言われても、やっぱり納得できなくて、もがきながら生きている。

私たちのこの活動は、契約を前提とした福祉サービスでやれない部分が多く、給付というかたちでもなかなか継続できない。でも、僕らは彼らの言葉に学びながら、これからのあるべき方向を探っていきたいと思っています。誰かが怖くてつながりを切ってきてしまってたけれども、ひたすらに誰かとつながりたくて少しずつ社会との縁を紡ぎ直す段階の人たちがいます。普通とは何か、悩みながら、それでも自分らしく生きていけるということがすごく大事なのかなと思っています。

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