お知らせ

誰もが地域で家族と暮らせるように人と人をつなぐ

小林 千鶴

相談支援専門員・管理者〔左〕
社会福祉法人 くすのき会 相談事業所くすのき(2019年時点)

廣瀬 由希

相談支援員・社会福祉士〔右〕
社会福祉法人 青い鳥会 相談事業所彦根学園(2019年時点)

家族の負担をなくして重度障害児者に1回でも多く入浴を

廣瀬由希さん、小林千鶴さんはそれぞれ湖東と東近江圏域で障害のある方の日常生活を支える相談支援事業所で相談支援員(*1)として働いています。障害のある方が在宅で暮らす際に、介助の中で最も大変と感じるのが「入浴」です。特に人工呼吸器などが必要な重度障害児者の入浴は、家族に大きな負担がかかります。「行政からはサービスを使って自宅で入浴できるでしょう、とよく言われます。でも、ご自宅のお風呂を想像してください。医療的ケアの必要な方の入浴はご本人を囲んで、ヘルパーさんが2人に看護師さん、さらに呼吸器などの機材を持ち込むので、いくらご本人が子どもさんでも自宅での入浴は非常に厳しいのが現実です」という廣瀬さんの言葉どおり、一般的な家庭の浴室では設備的にプロでも介助が困難です。訪問入浴サービス(*2)も利用できますが、市町の財政状況により自治体によって利用回数の制限もあり、仕方なく入浴回数が減っていくケースに2人もこれまで悔しい思いをしてきました。

モデル事業から市町の事業へ

そうした現場の声をきっかけに、縁センターでは「医療的ケアの必要な重度障害児者の入浴支援」をモデル事業として立ち上げました。機械浴(*3)の設備がある特別養護老人ホームなどから設備と場所の提供を受け、既存の制度では自宅にしか行けないヘルパーと看護師を利用者との契約に基づき、自宅外の施設に派遣して実施しています。廣瀬さんと小林さんはそれぞれの担当する当事者の方とこのモデル事業をつないでいます。
障害のある方の中で重度障害児者の割合は数パーセントですが、廣瀬さんが担当する相談者約100名のうちおよそ3分の1は重度の方。医療的ケアによってサービス利用が制限されるケースは決して少なくありません。「対象者が少数で制度からこぼれてしまいがちな方に焦点があてられた、このモデル事業は本当にありがたかった」と廣瀬さんは言います。そして、まだまだ課題はありますが、モデル事業の実績により重度障害児者への入浴支援が2017年度には東近江市で一部事業化され、日野町でも2018年度の実施に向けて動き始めています。
「これで、片道だけでも移動支援がつけば、家族も利用しやすくなって負担はさらに軽減するんですけどね」という廣瀬さん。重度の障害を持つ人も地域で家族と暮らし続ける。その実現に向けて絶えず試行が重ねられています。

分野を越えて支援のサービスをつくる

現場で介護などの支援をしていくつもりで福祉の仕事に就かれた2人。障害者一人ひとりに、必要に応じて相談支援員がつくという国の計画相談の制度が始まったタイミングで相談支援の仕事に携わるようになったそうです。2人とも相談支援の現場で、相談者の悩みと制度の限界との板挟みでつぶされそうになりながらも、家族のほっとした表情や労いの言葉にやりがいを感じてきました。
しかし、福祉関係者が集まる情報交換の場では同じような課題があがります。「いろいろな会議などに参加したり、縁センターの事業に関わらせていただいて、課題を整理して共有を図ることができるように、発信する役割を担っていかなければと感じるようになりました」と小林さんは相談支援員として自らの新たな役割を見出しています。また他分野との連携は、相談の現場にも新たな視点をもたらしています。「高齢者施設の機械浴槽という社会資源を活かす発想は自分にはないものでした。今後は逆に障害の施設やサービスを他の方に利用してもらうといったことも考えられるかもしれません」と、廣瀬さんもこれからの分野横断的な支援のあり方にまなざしを向けています。分野の垣根を越えることは困難も伴いますが、協働によるモデル事業で2人が新しい実践のスタイルと自身の役割を見出すことになり、重度障害児者への支援の可能性も広がっています。

*1 相談支援員
日常生活上の支援を必要とする障害者やその家族に対し、窓口による相談や家庭訪問による相談などを行う
*2 訪問入浴サービス
専門スタッフ3名(ヘルパー2名と看護師1名)が移動入浴車で浴槽を自宅に持ち込んで入浴介助を行うサービス
*3 機械浴
ストレッチャーを利用して仰向けに寝たままや座ったままの姿勢で入浴できるなど特殊な機械を用いて入浴する方法
〈えにし図書館 関連刊行物〉

この記事はこちらの刊行物にも掲載されています。